小嵐稲荷神社
標高1200メートル、遠山谷を見下ろすお稲荷様
小嵐稲荷神社は、山の所有者大屋孫治郎が(庄屋)、遠山に入郷した齢松寺(浜松)の僧侶とともに、京都本願寺再建のため京に上り、事業の成功を祈って迎えてきた霊験あらたかな稲荷神社です。
春の例大祭を訪ねた探訪記を紹介します。
小嵐様への道
小嵐稲荷神社は、木沢集落から西へ、車で10分ほど登った尾根に建つ小さな神社です。 対向車とすれ違えないほどの狭いアスファルト道を行くと、やがて車の腹を擦りそうなほどのガラガラの未舗装道に変わります。そして 「この道でほんとに大丈夫?」 と心細くなった頃、ようやく神社にたどり着きます。
神社のある場所の標高は1,020m。途中の道からは木沢集落の茶畑や、赤石山脈の眺めがとてもすばらしいですが、よそ見をすると崖から転落するので、運転手の方は気をつけましょう。(※注1)
- 落石に注意しましょう
恐いけれど頼もしい
鳥居をくぐると、木々が鬱蒼と茂る斜面に、何百もの小さな赤鳥居が突き刺さっています。 かなりアヤシイ雰囲気です。
実際、この小嵐様はとてもキツイ (※注2) 神様で、祟り話もいろいろ伝わっています。 東京の学生が、ブク (※注3) の身にもかかわらずお参りしようとしたところ、急に体の具合が悪くなって神社に近寄れなかったとか。
肉屋さんが神社の下の道を通ったところ、神様の怒りに触れてナギ倒されたとか。
小嵐様は死の穢れ、血の穢れを嫌う気の荒い神様なのです。
斜面を登ると木造の拝殿。中を覗くと多くの額が奉納され、壁際の棚には小さな白狐の塑像がびっしりと奉納されています。その数は万を超えるとか。
小嵐様に願い事をするときは、この像を一つ借り受けて願掛けし、成就したらお礼としてもう一つ添えて神社に返すのが慣わしです。狐像や鳥居の数の多さが、小嵐様の霊験のあらたかさを裏付けています。
気が荒い神様だけに、いざとなると頼もしいのです。
※1…道の途中の小嵐公園は兎岳の眺望が抜群で、車も(一応)停められます。
※2…「キツイ」とは気が荒いの意。
※3…「ブク」とは、家族や親戚などが亡くなり、忌が明けていない状態のことを言います。
※4…この時の材木探し探検の様子が『遠山奇談』という本にまとめられています。
- 奉納された鳥居
山奥に建つ理由
小嵐様には、村内はもちろん、飯田伊那地方さらには愛知県からも、参拝客が訪れます。
お稲荷様なので商売繁盛を祈る人たちが多いのですが、小嵐様の守備範囲はそれだけにとどまりません。太平洋戦争中は出征兵士の無事を祈願する人たちが多くお参りしましたし、昭和40年頃までは養蚕の守り神として崇敬を集めました。
「遠山じゃあ霜月祭りが有名だけど、神様としてこれだけよそからたくさんお参りに来るのは小嵐様だけだに」 と、木沢集落の人たちは口を揃えます。
今でこそ小嵐様は、不便な山の中にぽつんと建っているという印象ですが、かつてここには街道が通っていました。
秋葉街道の枝道の一つで、伊那山地を越えて飯田市千代と遠山谷を結ぶ「千遠線」です。
飯田からの参拝者たちは、換えの草鞋を腰にぶら下げてはるばる千代峠を越え、この神社で一泊のお篭りをしていったのです。
小嵐稲荷神社の創建については、こんな由来が伝わっています。
天明八年(1788)、京都で大火が起こり東本願寺が焼け落ちました。その再建のための用材集めを発願していた遠州浜松の齢松寺の僧が、信州遠山にすばらしい木があることを聞きつけてこの地にやってきました (※注4) 。
そして寛政元年(1789)、険しい山の作業の無事を祈るために、山主である大屋孫治郎という庄屋と協力して京都伏見稲荷から分霊を勧請してきたのが、この小嵐稲荷神社なのだそうです。
「京都から迎えてきたはいいけれど、なにしろキツイ神様だからな。とうとう山仕事の人たちが恐くなって、土地のモンに『祀ってくれ』って頼んで置いてっちゃったらしいなあ」 と語る村の方もいます。
その真偽は別にしても、小嵐様らしいエピソードです。
- 奉納された狐たち
小嵐様の例大祭
小嵐様の例大祭(※5)は春(4月第三日曜日)と夏(7月第三日曜日)です。大祭といっても、よその大きな神社の祭りと比べれば、ささやかです。
祭りは朝9時頃から始まり、お昼過ぎに終わります。玉串奉奠などの後、「十六神楽」「玉の御神楽」などの神楽歌を皆で歌い、昼になると持ち寄ったお料理を食べて世間話に花を咲かせます。
お神酒は飲み放題。神様にお供えされた稲荷寿司や油揚げも、このとき参拝客にふるまわれます。
村人でなくても、心ばかりのお祝儀を納めて神妙な顔で参列していれば、そのうちに 「お前さんはどっから来なさった。まあまあ、こっち来てお神酒をいただいてけや」 ということになります。
おぶすなへ 参るは遠し 参りては 氏子よろこぶ ヤンヤーハーハ
(十六神楽より)
- 自慢の料理に舌鼓(2003年7月)
小嵐様への道
小嵐神社イラストマップ/作・放牧舎
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