遠山郷の魚たち
遠山郷の魚たち
遠山川の魚の姿を、美しい絵とともにお伝えしています。全3回(アーカイブ)
⇒ 遠山郷の魚たち(PDF)
「南アルプス幽谷、鬼あまご伝説」(創作)
遠山の梶谷川には昔から清流の守り神として、あまご、やまと岩魚が生息しています。
昔、猟師から、「大淵をのぞくとデカイあまごがおってなあ、姿を見ると良い事があるんだぞっ、」と聞いた話をもとに、ここに生活している人々のやさしい心と、あまごのつながりを、南アルプス鬼あまご伝説として作成しました。
いつまでも、いつまでも、渓谷の美しい流れに住む魚達そして温かな人々の気持ちを大切にして行きたいと思います。
鬼あまごの由来
その昔、小さな魚が、一人の若者に、命を助けられた恩を忘れずに、
振りかかる災難の、身代わりとなった証として、
恐ろしい鬼の様な形様相は強い意志、
大きく肩から盛り上がる幅広の身体は健康、
輝く小判型の斑紋は金運、
福を呼び込む黄色の胸鰭、
まばゆい鮮やかな朱点は希望、
赤く縁取られた末広がりの大きな尾ひれの姿に変身した。
永遠に、生き続ける居付きあまごの呼び名。
絵・文/今村 昇
梅雨の大雨で水が増し川の様子を見に来た喜八は、大水で出来た溜りに弱った親指ほどの小さな魚を見つけた。その背中にはいくつもの黒い点があった。
(かわいそうだ)と思い首に巻いていて手ぬぐいを広げ清水の脇にあるわさびの葉を重ねて、水がもうらない様にして急いで家に持ちかえった。
家の裏の湧き水の池に放すと小さな魚は元気に泳ぎだした。
喜八は毎日、虫などの餌を捕って来ては食べさせた。
餌をやると、元気に飛び跳ねる可愛い姿が雨の雫の様に見えたので(雨子)と呼ぶことにした。
喜八は手のひらほどの大きさになった雨子を、
元の川に戻してやろうと人気の無い(七ツ釜の上の大淵)に放した。
雨子は何回か淵を回るとゆっくりと底へ姿を消していった。
喜八は、山仕事の帰り道、わさびを採って帰ろうと大淵の近くにある清水へと向かった。
途中、岩場の影からマムシが喜八の足に噛み付いた。
喜八の足は腫れ、銭形の斑点が現れた。
傷を冷やそうと大淵まで辿り着いた喜八は、足を水に沈めた。
すると一匹の魚が現れその周りを回って底へ消えていった。
喜八はあまりの痛さに気を失った。雨の音で目を覚ました喜八は、水から足を上げると驚いた事に痛みも斑点も痕かたもなく消えていた。
夏も終わるころ、村に疫病が流行った。
喜八も身体に湿疹と熱が出て寝ていたが大淵の周りには、どんな病も治す薬草があると長老が話をしていた事を思い出した。
喜八は(探しに行こう)と、支度をした。
やっとの思いで大淵に着いた喜八は、一生懸命、探し回ったが、雑草が多く薬草を見つける事が出来なかった。
乾いた喉を湿らせようと、淵の水を口に含むと不思議なことにたちまち湿疹は消えはじめ熱も下がり元気を取り戻した。
村の人達にも飲ませようと竹の筒に水を汲んだ。
すると一匹の魚が現れて一回りすると底へ消えていった。
村に戻り、皆に飲ませた所たちまち病は治り元気を取り戻した。
秋も深まったある夜、激しく朝方まで降り続く雨で橋が流された。
避難するには、橋を渡らなければならず喜八と村人は激しく波音を立てうねりながら流れる川を見つめて途方に暮れていた。
その時、目の前の流れが大きく盛り上がり今まで見たことの無い姿の魚が、大きな身体をくねらせながら高く飛び跳ねた。
( 二尺近いその魚の背中は大きく盛り上がり、顔は恐ろしく鬼の様な形様相幅広い身体には青く光る斑紋その斑紋に負けじとばかりのまばゆい朱点赤く縁取られた大きな尾ひれその背中には、いくつかの黒い点 )
その瞬間、うねっていた流れは大きくふたつに裂け向こう岸へと続く道が現れた。
喜八と村人はその道を渡り無事に避難することが出来た。
小さな魚が助けてもらった恩を忘れずに、ふりかかる災難の身代わりとなり美しく変身した雨子に喜八は、(鬼あまご)と名付けた。
そして、その心を忘れない為大淵の一枚の大きな岩に
(報恩感謝)と刻んだ
今も、七ツ釜の上の大淵には、あの(鬼あまご)が皆の幸せを願って住んでいると言い伝えられている。
また、ここに住んでいる人達が温かいのは、いつまでもその心を大切にしているからなのである。
「南アルプス幽谷物語」
南アルプスの雄大な自然の中で、生き続ける魚たちの命の強さ、清い流れに磨かれた美しい姿を、「南アルプス幽谷物語」シリーズとして作りました。
毎月1回、季節感を織り交ぜながら魚の姿をお伝えしました。全10回(アーカイブ)。
⇒ 南アルプス幽谷物語(PDF)
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