アマゴはイワナとともに、遠山を代表する川魚です。 地元ではアメノウオ、もしくはアメと呼ばれて親しまれてきました。



アマゴとヤマメはどうちがう?
アマゴとヤマメは姿がほとんど同じで、淡白な身や柔らかい骨など、川魚としての美味しさも変わりません。ただ、アマゴには脇腹に赤い斑点があり、ヤマメにはそれがないのが特徴です。
どちらもサケ科で、ヤマメは北のサクラマスの陸封型(※注1)、アマゴは南のサツキマスの陸封型です。遠山川を含む天竜川水系はアマゴ分布圏となっています。
三十年以上にわたってアマゴの養殖を続けてきた、南和田の鎌倉詔さんがアマゴとヤマメの微妙な関係について語ってくれました。
※1… 陸封 もとは海に棲んでいた魚などが、川や湖などに封じ込められることを陸封といいます。アマゴやヤマメのなかには今でも時折海へ下ろうとする個体がおり、体色が銀色になります。これをスモルト(銀毛)化といいますが、なぜ銀毛化するのかはまだよくわかっていません。
アマゴとヤマメの分布図
「かつて川魚がまだ知られていなかったころ、長野県の東京事務所が東京のイベントでアマゴを売ったことがありました。けれどアマゴやアメノウオという名は都会のお客さんに親しみにくく、『イワシですか?』と訊かれるほどで、なかなか売れませんでした。そこでおなじ魚をヤマメと言って売ったところ、お客さんは安心して買ってくれたということがあったそうですよ」
渓流釣りが普及してアマゴの名も通るようになった今でも、一般的にアマゴのことをヤマメと呼ぶ場合が多いのです。また、最近では放流が盛んとなり、ヤマメとアマゴの交雑種が天然の河川でも見られるようになってきています。

遠山川の尺アマゴ
アマゴの寿命は四~五年といわれ、多くのアマゴは産卵後も死ぬことはありません。 遠山川は三十センチを超える大物、いわゆる尺アマゴが釣れる名川として釣り人に知られています。
広大な南アルプスを源流とする遠山川は水量も餌も豊富で、尺アマゴの育つ環境に恵まれています。また、その流れの激しさゆえに否が応にも魚のヒレが発達し、身が引き締まっています。
イワナが細く暗い谷にひそむのに対し、アマゴは明るく開けた谷川でその美しい姿を躍らせています。イワナよりも警戒心が強い一方、いったん緊張をほどくとその逞しい遊泳力で貪欲に餌を狙い、さまざまな表情を見せてくれます。
アマゴを育てる苦労
南和田大町の鎌倉詔さんが、父親とともにアマゴの養殖を始めたのは昭和三十七年。アマゴを村の特産品にしたいという思いからでした。現在では後を継いだ息子さんとともに、南信濃のアマゴ養殖を一手に引き受けています。
鎌倉さんの養魚場では、現在円形水槽を導入しています。つねに水流が保てるので水の淀みがなく、病気が出にくい上に魚の運動量が増えて身のしまったアマゴになるのです。水槽にはシートを貼り、魚に傷がつかないように配慮しています。
普通のアマゴは孵化後十~十四ヶ月で出荷できるようになりますが、燻製にするような尺アマゴは、二年かけて育てます。
養殖といっても、アマゴの飼育には自然環境が大きくものを言います。とくに、一年中安定した水温と湧水量をもつ水の確保が第一条件。冬場は10℃以上、夏場は17℃以下の水温が理想です。特に夏場は、水温が20℃を越えるとたちまち病気が広がってしまいます。
「相手は水の中の生き物ですから気を使いますね。病気が広まりやすいし、一時間でも水が止まると酸欠になって全滅しかねません。台風が近づいてき た時なんかは、もう寝ずの番ですよ。三年前の夏、谷川から水槽へ水を引くパイプが落石で破損したことがあります。運悪く私が外出していて、近所の 人から知らせを受けて駆けつけたときにはもう手遅れでした。出荷直前のアマゴが全滅して、二百万円の損害を出しました」
天然も養殖も、遠山谷のアマゴは自然が育んだ繊細な芸術品なのです。
参考文献
『南信濃村動物誌 遠山郷に生きるどうぶつたち』 1998 南信濃村教育委員会
「遠山川の魚類と河川環境についての考察」 松下賢
当観光協会HP、2011年8月に投稿された記事を元に作成しています。