長野県最南端の秘湯と秘境の里・山と渓谷に囲まれた里山がここにあります−信州遠山郷

遠山郷Home遠山郷の歴史と文化 > 小嵐稲荷神社 春の例祭参加レポート

遠山郷と私の旅 吉野奈保子

「人はいつからここに住み始めたのだろう」

はじめて上村下栗に行ったとき、 ふとそんな言葉が口をついた。

天は近い。

急斜面に立つ私たちの足元には、

谷底から雲が湧き上がってきた。

遠山郷 下栗の写真

自然の中の静かな人の営みと、

そのあたたかさを感じる「遠山郷」の世界。

一方、

私の住む都会には、あふれる情報に右往左往し、

お金を目当てに奔走する人、人…。

都会の喧騒なんて、すっかり忘れさせてくれる「遠山郷」を旅しながら、

私は人間の歴史に想いを馳せた。

「人と自然」、「人と人」、「世代と世代」。

過去も、今も、未来も、それらが共に生かされ、生きていくことを願い、

想いつづけてきた人間の歴史。

ところが「現実」の世界は、そんな「理想」とは、かけ離れた方向に

進もうとしているのだろうか。

日本各地を旅すると、「現実」を少しでも「理想」に近づけたいと

努力している たくさんの人たちに出会う。

そこで感じた喜びと、 私がもらった勇気を伝えたい。

日本各地での出会いと 「遠山郷」をつなぐ、私の旅日誌。

どうぞご覧ください。

小嵐神社の春祭り

  南信濃村の皆さん、こんにちは。そして遠山郷に思いを寄せている皆さん、はじめまして。

 先日、私は久しぶりに南信濃村を訪れました。4月20日の小嵐神社、春の祭礼に参加するためです。
 小嵐様は、木沢集落から約4キロ離れた山の上にあります。今では車に乗って参拝に行く人が多いのですが、昨年から商工会の人たちが「歩いて参拝しよう」という呼びかけをしていて、その一行に私も加えてもらいました。
  当日はあいにくの雨でしたが、約40人が参加。茶畑の脇を通り抜け、集落を眼下に望みながら、ゆっくりとしたペースで山道を登りました。

遠山郷 小嵐の写真 茶畑の脇を通り抜け、集落を眼下に望む

小嵐参道

 小嵐様に通じる林道脇には、ところどころ「小嵐参道」という手書きの標識があります。これは昔の参道の入り口を示す標識です。
  昔の参道は、林の中を通り抜けられるようになっていて、途中には赤い鳥居が残っていたりもします。
  落ち葉を踏みながら登っていく道は、それは心地良いものです。

 1時間ほど歩いて、小嵐自然公園でひと休み。ここからは、晴れていれば南アルプスの聖岳をのぞむことができます。
  はるか谷底には木沢集落。対岸の山の斜面には中根集落を一望できます。
 ほら、この写真を見てください。霧の中、とても幻想的な風景でしょう!
 小嵐様までは、もうあと一息です。

遠山郷 小嵐公園の写真小嵐公園より遠山谷を見下ろす

小嵐稲荷神社へのマップ

 

小嵐様のお稲荷様

 小嵐様はお稲荷様です。皆さん、商売繁盛などを祈願して、お祓いを受けます。中には一対のお狐様を家に持ち帰って祀り、願いごとが叶うと、さらにひとまわり大きなお狐様一対を添えて、御礼参りをする人もいます。
 参拝客が一段落すると、木沢集落の人たちを中心に拾六神楽歌の奉納が行われます。

 ・・・・・やまのかみ そだちはいづこ

 おくやまの そやまのおくの・・・・・

 ・・・・・水神の そだちはいづこ

 おくやまの そやまのおくの・・・・・

遠山郷 小嵐様の参道の写真 小嵐様の参道  

小嵐様の例大祭

 「山の神は奥山にいらっしゃる」、そんな言葉が繰り返されました。
 小嵐様は集落の中に祀られているのではなく、山の高みにあります。
もしかしたら、もともとは山神様だったのかもしれません。

 拾六神楽歌を口ずさみながらの帰り道。山神様は、春の幸をいっぱいお土産に持たせてくれました。
 タラの芽にコシアブラ、モミジガサ・・・・。
  林道脇からちょっと手をのばせば、芽吹いたばかりの山菜を摘むことができるのです。
 今年は少し時期が早いようでしたけれども、昨年はワラビもたくさん伸びていて、おばさんたちが袋いっぱい集めた山菜を「お土産だから」と持たせてくれたりもしました。その美味しかったこと・・・。

遠山郷 小嵐様の参道の写真

春の訪れを告げる祭り

 私がはじめて南信濃村を訪れたのは、ちょうど1年前の小嵐様でした。
  そのとき、観光協会に勤める20代の女性に問いかけられたことを思い出します。
  「新しい観光客向けの土産物店に山菜や地場の野菜をたくさん並べたいと思って、おばさんたちに相談に行ったら、『野菜なんて売るもんじゃない。あげるもんだよ』といわれたんです。どうしたらいいでしょう。」

 とれたての山の幸、畑の幸をいっぱい並べて、観光客に喜んでもらいたいと思う彼女の気持ちがわかる・・・。
  と同時に、「野菜は売るものじゃない。あげるものだよ」というおばさんたちの言葉が、長い間、遠山郷で暮らしてきた人の、当たり前の気持ちなんだなあ、と私は妙に納得できたのです。

「すべてがお金じゃないよ。人が生きていくときに、大切なものはたくさんあるんだよ。・・・人と人のつながりは大事なんだよ」
 おばさんたちは、そう言っているようにも思えます。

 単純にお金の価値では換算しきれないもの。それは一言でいうと、人の輪です。そして、その人の輪は、自然の環の中にある・・・。
 お祭りの間じゅう、小雨まじりの霧に包まれていた遠山郷は、その翌日には、さわやかな青空になりました。これから遠山郷は眩しいばかりの新緑の季節に入ります。
 そう・・。小嵐様は、春の訪れを告げる祭りでもあるのです。